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胎児疾患HP ・胎児頻脈性不整脈(一般)・胎児頻脈性不整脈(臨床試験)・CDH・TTTS
最終更新日:2020年11月13日
胎児の腎臓で作られた尿は尿管という細い管を通り、膀胱に一旦溜まります。膀胱の中に一定量の尿が貯留すると、膀胱から尿道を通して尿が体外に排出され羊水となります。下部尿路とは膀胱より下流の尿路(尿道)を指し、尿道に先天的な閉塞がある場合を下部尿路閉塞(LUTO)とよびます。閉塞部位で尿の通過障害が起こるため尿を身体の外に出すことが出来ず、膀胱に多量の尿が溜まった状態となります。
下部尿路閉塞が高度な場合は尿の排出ができなくなり、羊水が極端に少ない状態(羊水過少)となります。羊水が少なくなると胎児の肺の発育が阻害され(肺低形成)、出生後に重篤な呼吸障害を呈する状態となることがあります。また腎臓や膀胱が貯まった尿による圧迫を受け続けることで、腎臓の尿を作る機能や膀胱の適切な排尿機能が失われてしまう場合もあります(腎機能障害・膀胱機能障害)。
肺低形成や腎機能障害の程度は、羊水過少の有無、閉塞の程度、発症時期などと関連します。羊水過少が妊娠20週前後までの早い時期に出現したLUTOの生存率は約1割と低く、生存した児の半数以上に重症の腎機能障害が見られました。一方、正常の羊水量が保たれたケースの生存率は良好でしたが、約4人に1人に重症の腎機能障害が見られました。
最も多い原因は後部尿道弁であり、尿道の膀胱に近い部分に生じる膜状の弁によって尿の流れが妨げられる病気です。その他にも尿道閉鎖、尿道狭窄、総排出腔遺残、プルーンベリー症候群など様々な原因があります。またLUTOの約2割は尿路閉塞以外の疾患を合併し、背景に染色体の異常があることもあります。
LUTOは、超音波検査で胎児のお腹の中に大きな嚢胞を認め、それが膀胱であることを確認することで出生前診断されます。羊水過少や水腎症・腎臓の異常の有無、尿路閉塞以外の疾患の有無も重要な所見です。LUTOの主な原因である後部尿道弁や尿道閉鎖を超音波検査で区別することは困難です。
LUTOでは肺低形成や腎機能障害によって経過が良くないことがあり、また重症のLUTOでは生まれる前に肺低形成や腎機能障害が起こってしまうため、胎児に対して行う治療が試みられています。現在日本で主に行われている胎児治療は、胎児の膀胱と羊水腔の間に細い管を留置して尿を身体の外に出す膀胱-羊水腔シャント(vesico-amniotic shunt; VAS)です。
LUTOに対してVASを行ったケースとVASを行わなかったケースを比較した臨床試験では、VASを行ったケースの約半数が生存し、治療を行わない場合に比べて良い結果でした。しかし、腎臓の機能が良好で生存している例は少く、腎機能障害に対する効果は示されませんでした。より多くの例における検討でも、腎機能障害に対してVASは有効ではありませんでした。またVASでは生理的な排尿と違い尿が常に排出されている状態となるため、膀胱機能障害は防ぐことが出来ないとされています。
海外では胎児膀胱鏡(fetal cystoscopy; FC)によるLUTOの胎児診断・治療が行われており、生存率の向上だけでなく腎機能に対する効果も期待されています。2020年6月から国内で胎児膀胱鏡の臨床試験が開始されました。