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胎児疾患HP ・胎児頻脈性不整脈(一般)・胎児頻脈性不整脈(臨床試験)・CDH・TTTS
最終更新日:2020年11月13日
一絨毛膜双胎では、胎盤の吻合血管を介して双方の胎児の間の血液の流れのアンバランスが起きた場合に、双胎間輸血症候群(Twin-twin transfusion syndrome、以下TTTS)になると考えられています。早期発症例では、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(Fetoscopic Laser Photocoagulation: FLP)という治療により多くの児が助かるようになりました。FLPとは内視鏡(胎児鏡)をお母さんの子宮の中に挿入し、二人の胎児の間の胎盤の吻合血管をレーザー光線で凝固する治療法です。【TTTSの項を参照】
一方、胎児発育不全を伴う一絨毛膜双胎(Selective IUGR)はTTTSに似た病態ですが、吻合血管を介する血流のアンバランスと胎盤の占有領域のアンバランスの両方が関連していると考えられています。特に、小さい胎児は胎盤の占有領域が狭いために発育不全をきたします。小さい胎児は、低酸素状態のための胎児死亡・新生児死亡および神経学的異常が問題となります。大きい胎児においても、出生後に神経学的異常(脳室周囲白質軟化症など)や心筋肥厚が指摘されることがあり注意を要します。胎児の状態がより悪化した場合(胎児機能不全)を適応とした人工早産が選択されることがありますが、その場合は両児ともに未熟性が問題となります。また、一絨毛膜双胎において一児胎児死亡となった場合には、生存児から死亡した児への吻合血管を介した急激な血液の移行が起こりうるため、他方の生存児の死亡や神経学的異常の危険があります。Selective IUGRのハイリスク例においても、小さい胎児の胎児死亡に伴って大きい胎児が影響を受ける可能性があります。
日本でのSelective IUGR症例の予後調査では、両児ともに後遺症がなく生存したケースは、臍帯動脈血流に異常が無い場合は約90%であったのに対し、臍帯動脈血流に異常がある場合(病型分類のType IIまたはType III)は約35%でした。また、両児ともに予後不良(死亡または後遺症)となるケースは、臍帯動脈血流に異常が無い場合は約4%であったのに対して、臍帯動脈血流に異常がある場合は約40%でした。さらに、小さい胎児の臍帯動脈血流異常に加えて小さい胎児に羊水過少がある重症Selective IUGRでは、小さい児の90%以上が死亡し、また大きい児の約55%も死亡に至っていました。一部の生存した小さな児にも神経後遺症がありました。つまり「臍帯動脈血流異常」と「羊水過少」がある場合は最も予後が悪く、注意が必要であることがわかりました。
超音波検査で診断します。診断基準は以下の通りです。
さらに、超音波ドプラ法での臍帯動脈血流波形と羊水量を参考にします。
重症Selective IUGRは、通常の経過観察では赤ちゃんの予後がよくないため、治療法の確立が課題でした。重症Selective IUGRに対するFLPで胎児間の血流を遮ることにより、子宮内胎児死亡を防ぐことが可能となるばかりでなく、妊娠期間の延長に伴って胎児の成長が期待でき、生後の経過が順調となることが期待されました。また万一、一方の胎児が死亡した場合でも、生存している胎児の血流の変動を防ぐことで、死亡や脳障害を予防できることが期待されます。
以上のような考えから、日本において妊娠群26週未満の重症Selective IUGR(小さい胎児に臍帯動脈血流異常と羊水過少がある場合)に対するFLPの臨床試験が行われました。その結果、安全に手術を行うことが出来ました。また、大きい赤ちゃんと小さい赤ちゃんの生存率が高くなる傾向でした。日本でのこの手術と適応と成績を表1、表2にそれぞれ示します。
FLPは、現在TTTSに対して行われている手術に準じて行います。FLPは胎児鏡にて子宮内の胎盤表面の吻合血管を同定し、吻合血管をレーザーにて凝固を行います。視野を確保 するため必要に応じ人工羊水を子宮内に注入することもあります。すべての吻合血管の凝固が終了した後、残った吻合血管がないかどうかを確認して終了とします。術後には子宮収縮抑制剤を使用した切迫流早産に対する予防治療を開始します。また、この手術には保険が適用されています。
適応 |
|
---|---|
要約 |
|
計52名 | Type II
42名 |
Type III
10名 |
|
人 (%)または中央値(範囲) | |||
胎児死亡・流産 | 31/104 (30%) | 29/84 (35%) | 2/20 (10%) |
---|---|---|---|
小さい児の胎児死亡 | 28 (54%) | 26 (62%) | 2 (20%) |
大きい児の胎児死亡 | 1 (2%) | 1 (2%) | 0 |
流産 | 1 (2%) | 1 (2%) | 0 |
分娩時期(週) | 33 (19–39) | 32 (19–39) | 34 (30–36) |
早産 | 43 (83%) | 33 (79%) | 10 (100%) |
妊娠28週未満の早産 | 7 (13%) | 7 (17%) | 0 |
生産 | 73/104 (70%) | 55/84 (65%) | 18/20 (90%) |
小さい児 | 23 (44%) | 15 (36%) | 8 (80%) |
大きい児 | 50 (96%) | 40 (95%) | 10 (100%) |
計52名 | Type II
42名 |
Type III
10名 |
|
人 (%)または中央値(範囲) | |||
新生児死亡 | 1/104 (1%) | 1/84 (1%) | 0 |
---|---|---|---|
小さい児 | 0 | 0 | 0 |
大きい児 | 1 (2%) | 1 (2%) | 0 |
生後28日時点での生存割合 | 72/104 (71%) | 54/84 (64%) | 18/20 (90%) |
小さい児 | 23 (44%) | 15 (36%) | 8 (80%) |
大きい児 | 49 (94%) | 39 (93%) | 10 (100%) |
脳の異常所見の無い生存割合 | 72/104 (71%) | 7 (17%) | 0 |
小さい児 | 23 (44%) | 15 (36%) | 8 (80%) |
大きい児 | 49 (94%) | 39 (93%) | 10 (100%) |