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- 胎児重症大動脈弁狭窄症に対するバルーン弁形成術の早期安全性試験
- 双胎間輸血症候群(TTTS)
- 胎児胸水(乳び胸)
- 胎児頻脈性不整脈
- 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)
- 脊髄髄膜瘤(MMC)
- 先天性嚢胞状腺腫様形成異常(CCAM)
- 先天性心疾患
- 下部尿路閉塞(LUTO)
- TRAP sequence(トラップシークエンス)
- 胎児貧血
胎児疾患HP ・胎児頻脈性不整脈(一般)・胎児頻脈性不整脈(臨床試験)・CDH・TTTS
最終更新日:2013年09月17日
先天性心疾患は100人の生産児に対して0.8~1人の割合で合併すると報告されています1)2)。このうち重症心奇形が1/3以上を占めており、乳児死亡の最大の原因となっています。先天性心疾患の出生前診断は、重症心疾患の救命率の向上や合併症の低減に貢献していますが、先天性心疾患は最も出生前診断が困難な先天異常のひとつであり、未だに診断率は低いと言わざるを得ません。
先天性心疾患のうち、家系内で遺伝するものが5%、ダウン症候群などの染色体異常が8%、母体感染や薬などの環境要因が1%未満で、その他の大部分が原因不明(原因不明の多因子遺伝)と考えられています。
胎児心エコーにより診断を行います。妊娠18週~30週が診断に適しているといわれています。産科医もしくは小児循環器科医が胎児心エコーを行い、心臓の大きさや向き、心房・心室・大血管の位置関係や大きさなどを観察します4)。なかには胎内で見つけるのが難しいものもあり、胎児心エコー診断が万能という訳ではありません。
胎児心エコーによる診断の下、生後予想される経過、治療法、予後等について説明が行われ、必要な治療に応じて周産期管理を行う施設が決定されます。 分娩様式は施設ごとに方針が異なりますが、生後直ちに集中治療が必要と考えられる状態や不整脈を伴う場合などでは帝王切開を計画します。 生後に改めて心エコーなどにより診断を行います。動脈管依存性の先天性心疾患では動脈管が閉じるのを防ぐための点滴が開始され、新生児期に必要な手術が計画されます。手術が必要な疾患では、児の呼吸状態や体重増加を見ながら、疾患により一期的もしくは段階的に手術が計画されます。自然治癒が期待される疾患では定期的な心エコーなどにより経過観察が行われます。
重症心疾患においては、生後直ちに手術を行わなければ救命できない疾患や、生後段階をおいて手術を行い最終的に単心室型の循環動態とせざるを得ない疾患があります。これらの心疾患は出生前診断の向上や周産期管理、新生児管理、外科治療の進歩により予後は改善していますが、長期的な予後に関してはまだ満足のいくものではありません。このため2000年よりボストンを中心に重症心疾患に対する胎児治療が試みられてきました。現在海外において胎児治療の適応とされている疾患として重症大動脈弁狭窄、重症肺動脈弁狭窄症、純型肺動脈弁閉鎖、卵円孔閉鎖もしくは狭窄を伴う左心低形成症候群が挙げられます。
妊娠中期に大血管弁狭窄を来す疾患では、胎児期に狭窄を解除することによって二心室型の血行動態を確立できる可能性が示され、胎児治療が試みられてきました。現在、妊娠20週~30週前後の重症大動脈弁狭窄症、重症肺動脈弁狭窄症、純型肺動脈弁閉鎖の一部の症例に対し、海外ではバルーン弁形成術が施行され、生後に二心室型の循環動態が確立されると報告されてきています。母体・胎児に麻酔をかけた後、母体の腹壁から胎児を穿刺に適した位置に調整します。超音波で観察しながら心室心尖部側から狭窄部位に向かって穿刺を行い、バルーンで拡張を行います5)6)。
また卵円孔閉鎖もしくは狭窄を伴う左心低形成症候群に対しても、2001年より子宮内で心房間交通の拡大術が行われてきています。麻酔をかけた後に右房側からカテーテルを進めて心房中隔に穴をあけ、バルーンで拡大を行いますが、再度閉鎖してしまうことがありステントを挿入するなどの工夫が行われてきています7)。
重症大動脈弁狭窄に対するバルーン弁形成術は、技術的には67-80%前後で成功していますが、二心室型の循環動態を確立できるのはそのうち33~67%前後であり、子宮内胎児死亡が10%程度と報告されています8)9)10)。純型肺動脈閉鎖や重症肺動脈弁狭窄に対するバルーン弁形成術は技術的に難しいと言われており、まだ症例報告数は少ないですが技術的な成功率が64%と報告されています11) 。 卵円孔閉鎖を伴う左心低形成症候群に対する心房間交通拡大術もまだ報告数は少ないですが技術的には90%の成功率との報告がありますが、再閉鎖することが問題となっており技術の向上が求められています。子宮内胎児死亡のリスクが9.5%との報告もあります。出生後の生存率は58%と報告されています8)。
1) Hoffman Jl. Incidence of congenital heart disease: Ⅱ. Prenatal incidence. Pediatr Cardiol. 1995; 16: 155-165
2) Hoffman Jl, et al. The incidence of congenital heart disease. J Am Coll Cardiol. 2002; 39: 1890-1900
3) 先天性心疾患の疫学調査 日本小児循環器学会誌 2003; 19: 606-621
4) 里見元義, 川滝元良, 西畠信, 前野泰樹. 胎児心エコー検査ガイドライン. 日本小児循環器学会雑誌2006;22:591-613
5) Tworetzky W, et al. Balloon dilation of severe aortic stenosis in the fetus: Potential for prevention of HLHS: Candidate selection, technique, and results of successful intervention. Circulation 2004; 110: 2125-2131
6) Marshall AC, et al. Results of in utero atrial septoplasty in fetuses with hypoplastic left heart syndrome. Prenat Diagn 2008; 28: 1023-1028
7) Arzt W, et al. Intrauterine aortic valvuloplasty in fetuses with critical aortic stenosis: experience and results of 24 procedures. Ultrasound Obstet Gynecol 2011; 37: 689-695
8) Rychik J, et al. The hypoplastic left heart syndrome with intact atrial septum: atrial morphology, pulmonary vascular histopathology and outcome. JACC 1999; 34: 554-560
9) McElhinney DB, et al. Current status of fetal cardiac intervention. Circulation 2010; 121: 1256-1263
10) McElhinney, et al. Predictors of technical success and postnatal biventricular outcome after in utero aortic valvuloplasty for aortic stenosis with evolving hypoplastic left heart syndrome. Circulation 2009; 120: 1482-1490
11) Tworetzky, et al. In utero valvuloplasty for pulmonary valve atresia with hypoplastic right ventricle: techniques and outcomes. Pediatrics 2009; 124: 2008-2014