疾患リスト閉じる
- 双胎
- 胸部
- 血液
- 心臓
- 尿路
- 脊椎
胎児疾患HP ・胎児頻脈性不整脈(一般)・胎児頻脈性不整脈(臨床試験)・CDH・TTTS
最終更新日:2020年11月13日
TTTSは一絨毛膜双胎(胎盤が1つの双胎)に起こる特殊な病気です。双胎で胎盤が1つのため、共有している胎盤でつながっている血管(吻合血管)を通じて、互いの血液が両方の胎児の間を行ったり来たり流れており、通常はバランスがとれているため問題がありませんが、このバランスが崩れたときTTTSが 発症します。血液を余分にもらっている方の胎児(受血児)は全身がむくんできて、心不全、胎児水腫という状態になります。また、胎児の尿量が増えることに より羊水過多となります。一方、血液を送り出している胎児(供血児)は、発育不全で小さくなり、尿量が少なくなるため腎不全や羊水過少となります。この病 気は一絨毛膜双胎の約1割におこり、無治療では児の救命が困難です。TTTSはどちらか一人の児の病気ではなく、どちらの児も状態が悪くなることが特徴です。
自覚症状としては、羊水過多により腹囲や子宮底の急激な増大が認められ、上腹部圧迫感や子宮収縮なども感じます。また急激な体重増加がみられることもあります。
診断は超音波検査で行います。一絨毛膜二羊膜双胎で羊水過多と羊水過少を同時に満たすことで診断されます。
TTTSの診断が確定したら、重症度分類が行われます。
症状/Stage | I | II | III | IV | V | |
---|---|---|---|---|---|---|
classical | atypical | |||||
羊水過多過少 | + | + | + | + | + | + |
供血児の膀胱がみえない | ー (みえる) |
+ (みえない) |
+ (みえない) |
ー (みえる) |
+ or − | + or − |
血流異常 | ー | ー | + | + | + or − | + or − |
胎児水腫 | ー | ー | ー | ー | + | + or − |
胎児死亡 | ー | ー | ー | ー | ー | + |
注1:血流異常は、1) 臍帯動脈拡張期途絶逆流、2) 静脈管逆流、3) 臍帯静脈の連続する波動のいずれかを、供血児および受血児のどちらか一方に認めれば、Stage IIIと診断する
注2:血流異常を認めるが供血児の膀胱が見えるものは、Stage III atypicalと亜分類し、膀胱が見えないStage III classicalと区別する
注3:供血児および受血児のどちらか一方に胎児水腫を認めればStage IVと診断する。血流異常や供血児の膀胱の確認は問わない
注4:供血児および受血児のどちらか一方が胎児死亡となったものはStage Vと診断する。血流異常、胎児水腫の有無、膀胱の確認は問わない
妊娠週数により治療法を考慮します。新生児治療による管理が難しい時期では、胎児治療が選択されます。26週未満のTTTSに対しては、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: fetoscopic laser photocoagulation for communicating vessels)が第一選択です。また妊娠26-27週でも羊水過多が羊水深度で10cm以上の場合は選択されます。ただし、条件が悪くFLPができない場合などは、羊水除去が選択されます。
以下の基準を満たした方にFLPを行っています(2012年から保険適応あり)。
TTTSに対するFLPの適応と要約 | |
適応 | TTTSである(一絨毛膜二羊膜双胎、羊水過多≧8cm、羊水過少≦2cm) |
---|---|
妊娠16週以上、26週未満である | |
Stage I〜IVである | |
要約 | 未破水である |
羊膜穿破・羊膜剥離がない | |
明らかな切迫流早産徴候がない | |
母体が手術に耐えられる(重篤な母体合併症がない) | |
母体感染症がない(HIVは禁忌) |
(Japan Fetoscopy Group)
FLPは子宮内に胎児鏡という内視鏡を挿入し、TTTSの原因となる胎盤吻合血管を凝固焼灼して、両児間の血流の行き来を止める根治療法です。
母体と胎児に十分な麻酔(硬膜外麻酔、局所麻酔+静脈麻酔など母体の状態にあわせて選択します)を施行した後、母体の腹壁に小さな皮膚切開を加え、受血児の羊水腔に幅広(3.8mm)の針(トロッカー)を挿入します。トロッカーより胎児鏡(2mm〜3.5mm)を挿入し、胎盤表面の血管を観察します。胎盤表面の吻合血管を全て検索し、胎児鏡より挿入した医用レーザー(400〜1000μm)にて吻合血管を焼灼します。全ての吻合血管を焼灼した後、それらの焼灼部をつなぐように胎盤の端から端までに焼灼します。これは極細の血管吻合を見逃さないためです。その後、羊水を除去して終了となります。
ほとんどの治療はこの一本のトロッカーのみで可能ですが、稀にもう一本トロッカーが必要となることがあります。
羊水除去術はいろいろな理由でFLPが実施できない場合に行います。母体に局所麻酔を行い1mm前後の針を子宮内に挿入し、余分な羊水を除去します。羊水過多症による症状(子宮収縮や母体の圧迫症状)を軽減すること、および妊娠期間を延長することが目的となります。
羊水除去によりTTTSの症状が改善することもあります。繰り返し羊水除去を必要とすることが多く、通常は数回から十数回の治療が必要です。
妊娠26週未満のTTTSにおいてはFLPにより生存率が上昇し、神経学的後遺症も減少しました。従来の羊水除去による治療では(重症度により差はありますが)生存率50-60%で神経学的後遺症が25%程度でしたが、FLPの導入により、生存率は80%、神経学的後遺症は10%未満と改善することができました。児が二人とも生存できる割合が70%、一人生存できる割合が25%ですが、残念ながら二人とも亡くなってしまう割合が5%程度です